金融緩和に効果はない?
前回の記事では金融政策においてどのようなオペレーションが行われているのかについてご説明しました。最近の金融緩和は低金利への誘導だけでなく、お金の量を増やすことを目的にした非伝統的金融政策も採用することでデフレ脱却を目指しているという内容でしたね。
しかし、2000年に開始したこの非伝統的金融緩和を含めた異次元の金融緩和ですがいまだにデフレ脱却には至っていません。この事実からデフレ脱却において金融緩和は意味がないという批判も見られます。
ところが、20年以上経ってもなおデフレ脱却を成しえていないからと言って金融緩和を否定することは誤っており、財政政策との合わせ技で取り組む必要があるというところまでが前回のあらすじでした。
それではその財政政策とはどういったもので、どのように運用されるべきものなのか、わかりやすく説明して参ります!
デフレ時には政府は支出を増やせ
財政政策の内容について踏み込む前に、ここはぜひ押さえていただきたいというポイントについて触れさせておきます。
当然のことながら、経済政策は国民生活が豊かになるように経済を調整することです。その目標達成の手段には金融政策と財政政策の2つがあり、この2つを有機的に運用することでマイルドインフレを目指します。
デフレ期においては金融政策では金融緩和、財政政策ではバランスシートを拡大する(=政府が支出を増やす)ことが必要です。
コロナで多くの方の収入が減っていれば、給付金などを通じて国民の生活を支えたことは記憶に新しいと思います。
金融政策は合格、財政政策は・・・
それでは、本格的にデフレ脱却に向けて、異次元の金融緩和を含む政策に乗り出した第2次安倍政権で何が行われたのかを確認し、その妥当性を確かめてみましょう。
今までご説明してきた通り、金融政策において安倍政権は異次元の金融緩和と称して積極的な量的緩和を行ってきました。デフレに対して金融緩和、筋が通っています、OKです。
一方財政政策ですが、5%→8%、8%→10%と2度にわたり消費増税を行いました、これはOUTです。増減税は企業または個人からどの程度現金を徴収するのかという極めて重要度の高い財政政策の1つですが、これを増やしました。
デフレなのに増税・・・完全OUTです。しかも消費税はほぼすべての消費活動に影響するものなのでそのインパクトたるや甚大です。なぜこの状況下で増税をしてしまったかというと、3党合意が云々カンヌンなのですが、今はいったん置いておきます。
アクセルとブレーキを同時に踏み込んでしまった
すなわち、政府はデフレ脱却を旗印に金融緩和を行いましたが一方で増税をしてしまいました。俗にいう「アクセルとブレーキを同時に踏んだ、ちぐはぐな政策」により、日本経済は思ったよりインフレ圧力がかからなかったということになります。
もちろんこれだけが唯一の原因ではないにしろとても大きな要因であることは間違いありません。政府のこの失策により、日本はデフレ方向へ引っ張られてしまいました。
歴史は繰り返す
ちなみに現岸田政権でも似たようなことが起きています。いまだ完全なデフレ脱却には至っていない状況で、今年2024年6月には所得減税が断行されますが、日銀は先日異次元の金融緩和の解除という金融引き締め行いました。
せっかく景気が復活しそうなところまで来ている中で金融引き締めを行ったのです。
・・・どうも日本という国は少しでもインフレ率がプラスに転じると引き締めをする「クセ」があるようです。非常に不思議です。
財政政策で何が起こるのか
それでは、前置きが長くなりましたが、財政政策の影響がどのようにわたしたちの生活に影響を及ぼすのか解説していきます。
先ほどのお話の中に答えは含まれていますが、財政政策とは政府がお金を取ったり出したりすることで実体経済へ直接的に影響を及ぼす政策です。先ほどの消費増税は大変分かりやすいですね。
消費税を上げることで私たちの負担が増える一方、政府の懐に入っていきます。このように私たちの日々の買い物レベルで負担が増えます。
金融緩和は金利の操作が主な目的ですから、即効表れる効果は金融市場に対してです。給料、失業率など私たちにとっても身近なものにも追々影響は出てきますが、タイムラグがあります。
財政政策は実体経済に直接影響を及ぼす
財政出動を行うことで、デフレ経済にとっていわば火種となる効果が期待できます。いくら金融緩和によってお金が借りやすくなったといっても、そもそもの元手が少なければひ人々はなかなか支出を増やそうとしません。
ましてやデフレが30年続いて「デフレマインド」が染みついてしまった状態では、です。財政を拡大することで需要を喚起することが何よりも大切です。
金融政策は有効、財政政策を有機的に織り交ぜろ
したがって、金融政策は実体経済には影響しないといった批判は不適当であり、デフレ期の金融緩和は有効です。これは世界各国の物価上昇率の推移とお金の量(ハイパワードマネー)の推移が連動的であることで確認できます。気になる方は調べてみてください。
問題なのは金融緩和をする一方で財政出動を渋る政策スタンスです。目的に対して適切な手段が用いられているのか、政治家にはよくよく議論していただきたいですし、わたしたちも彼らが正しい判断をしているのかしっかりと監視しておく必要があります。