異次元の金融緩和とは?
今回は金融政策について、とくに金融緩和について解説します。
前回の記事では経済政策の中には財政政策と金融政策があることを解説しました。
金融政策は影響範囲が広く、金不足の状態で、まずはじめに実施すべき政策というお話でした。
今回はその金融政策、最近では異次元の金融緩和解除といったニュースが目立ちますが、知識がないと何の話をしているのか全く分かりません。
この記事では具体的にどういったオペレーションが行われているのかをご説明します。そしてそれが我々の生活にどのような影響をもたらすかまでご理解いただければ最高です。
金融政策には2種類ある
金融政策は大きく分けて2種類あります。伝統的金融政策と、非伝統的金融政策です。この2つの意味は読んで字の如く昔からある政策なのか、最近出てきた政策なのかです。
この2つを常に分けて考える必要はないのですが、これらの考え方を知ることでその政策を選定する意図が見えてきますので知っておいて損はありません。
それでは、まず伝統的金融政策からご説明します。
伝統的金融政策
伝統的金融政策は昔から採用されている歴史の長い政策であり、具体的には金利操作を目的に行われます。
日本銀行など中央銀行は市中に出回るお金の量を調整することで金利を操作します。
その主な手段が政策金利操作です。これは「政策金利」と位置付けられている無担保コールレート(オーバーナイト物)の貸し借りを通じて金利を操作します。
この無担保コールレート(オーバーナイト物)は銀行同士が一時的な資金の過不足が発生したときに、「翌日返すから無担保でお金貸して」と短期資金を補う際に適用される金利のことです。この金利が低いということは銀行間での資金の流動性が高まるということです。
そのほかにも支払準備率操作や公開市場操作がありますが、いずれの政策も金利を調整するという目的は変わりません。
デフレ状態の時にはなるべく金利を低くして市場で様々な取引が起きやすくなるようにします。しかし、去年までの日本のように短期金利がゼロであってもなかなかインフレが起きないことがあります。
名目金利の下限は0%なのでこれ以上金利を下げられません。それでは万事休すということでしょうか?いえ、まだ手は打てます。それが非伝統的金融緩和です。
日本も非伝統的金融緩和を採用している
つい先日の2024年3月19日、日銀の植田総裁は異次元緩和の大枠解除を発表し、政府もこれを容認しました。
ここで言う異次元の金融緩和というのがまさに非伝統的金融緩和のことです。「インフレ率も3%程度になり景気もある程度回復してきたので金融緩和の程度を緩めますよ」ということです。
長年に渡って続いてきた非伝統的金融緩和の大枠を脱しました。このタイミングでの解除は賛否両論ありますが、それについては別の機会に。
非伝統的金融緩和
非伝統的金融緩和の実例その2です。1990年に日本はバブルがはじけてデフレ時代に突入し慢性的なカネ不足に陥りました。
当初は伝統的金融政策で持ち直しを図りましたが、政策金利が0%付近まで近づいてしまうと打つ手がなくなりました。そこで、さらなる対策として採られたのがマイナス金利政策、量的緩和、そしてイールドカーブコントロールです。
この中でマイナス金利とイールドカーブコントロールは、金利調整を行うという意味で伝統的金融政策の延長線にあると見ることができます。
マイナス金利は民間銀行が中央銀行である日銀と資金のやり取りを行う際に使っている日銀当座預金へ現金を預けていると、その一部にマイナスの金利を適用することでなるべく民間部門への貸し出しに回すよう誘導する政策です。
伝統的金融緩和で出てきた無担保コールレートの金利とは別物なので注意です。
またイールドカーブコントロールは今までの短期金利だけでなく長期金利も操作しますよ、というものです。
これら金利の操作だけでなく、市中の国債を日銀が買い入れることで市場のお金の量を増やす政策が量的緩和です。
いままでの政策との違いは目的が金利操作でなく市場に出回るお金の量を増やすことが目的という点です。こうすることで実体経済での活動が活発になることが期待されています。
これらの政策によって、金利0%の状態でもさらに金融緩和を行うことができます。
非伝統的金融緩和の是非
ところがこれら非伝統的金融政策は新たな経済政策として世界から注目されていましたが、日本ではその効果は限定的という見方が根強いです。
なぜならば、日本は2000年ころからゼロ金利政策をはじめとする非伝統的金融政策を開始しましたが、2024年現在いまだに完全なデフレ脱却に至っていないからです。
確かにここまでを読むだけではこれらの新しい試みが功を奏したと評価するわけにはいきません。しかし、デフレ期には金融緩和によってマイルドインフレを実現することは世界常識であり、理論的にも正しいと専門家の間でコンセンサスが取れています。
それでは一体何が間違っているのでしょうか?答えはもう1つの経済政策である財政政策の適切な実施です。財政政策については以下の記事で詳細を解説していますので、経済政策の深い理解にお役立てください。
更新日 2024/5/27